多系統萎縮症で障害年金を申請するためのガイド

多系統萎縮症は障害年金の対象になる病気です

多系統萎縮症とは

多系統萎縮症は、英語でMultiple System Atrophy、略してMSAと呼ばれる神経難病です。厚生労働省の指定難病では、告示番号17「多系統萎縮症」として掲載されています。

多系統萎縮症では、主に小脳症状、パーキンソン症状、自律神経症状がみられます。初期には、ふらつき、歩きにくさ、動作が遅くなる、体がこわばる、排尿障害、立ちくらみなどの症状から始まることがあります。進行すると、転倒、歩行困難、車いす使用、嚥下障害、構音障害、呼吸障害などが問題となり、日常生活や就労に大きな支障が生じます。難病情報センターでは、多系統萎縮症について、進行すると小脳症候、パーキンソニズム、自律神経障害が重複してくる疾患と説明されています。

障害年金では「病名」よりも生活・労働への支障が重要

障害年金は、「多系統萎縮症という病名があるから必ず受給できる」という制度ではありません。認定で重視されるのは、病名そのものではなく、症状によって日常生活や労働にどの程度の制限が生じているかです。

たとえば、次のような状態がある場合は、障害年金の申請を検討する余地があります。

申請を検討すべき状態

  • ふらつきが強く、屋外歩行が危険である
  • 転倒を繰り返している
  • 杖、歩行器、車いすを使用している
  • 手の巧緻動作が低下し、箸、ボタン、筆記、パソコン操作が困難
  • 話しにくさ、ろれつの回りにくさがある
  • むせ込み、誤嚥、食事形態の変更、胃ろう等がある
  • 排尿障害、起立性低血圧、失神、便秘などの自律神経症状が強い
  • 仕事を続けられない、または大幅な配慮がなければ就労できない
  • 家族の見守りや介助がなければ生活が維持できない

多系統萎縮症は進行性の疾患であり、症状の変化が比較的早い場合があります。そのため、現在の状態だけでなく、初診から現在までの経過、悪化のスピード、補助具や介助の必要性を丁寧に整理することが重要です。

日本年金機構の障害認定基準で見るポイント

神経系統の障害としての認定

多系統萎縮症は、障害年金では主に「神経系統の障害」または「肢体の障害」として検討されます。日本年金機構の障害認定基準では、神経系統の障害について、1級は日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度、2級は日常生活が著しい制限を受ける程度、3級は労働が著しい制限を受ける程度とされています。

1級の目安

1級は、日常生活のほとんどに全面的な介助を要するような状態です。多系統萎縮症では、寝たきりに近い状態、車いす移乗にも介助が必要、食事・排泄・更衣・入浴などに常時介助が必要、嚥下障害や呼吸障害により生命維持に関わる管理が必要な場合などが考えられます。

2級の目安

2級は、日常生活に著しい制限がある状態です。たとえば、屋外歩行が困難、転倒リスクが高く単独外出ができない、家事の多くができない、入浴や更衣に見守り・介助が必要、食事に時間がかかる、むせ込みが多い、就労が困難または著しく制限されている場合などです。

3級の目安

3級は、厚生年金加入中に初診日がある方が対象です。日本年金機構の障害等級表では、3級について、身体機能や神経系統により労働が著しい制限を受ける状態が示されています。
多系統萎縮症では、一般就労を継続していても、短時間勤務、軽作業への変更、通勤配慮、転倒防止のための配置転換、頻回な休憩、周囲の見守りなどがなければ働けない場合、3級相当の検討が必要になります。

肢体の障害として評価される場合

歩行・手指・体幹機能が重要

多系統萎縮症では、歩行障害、ふらつき、姿勢保持障害、手指の巧緻動作の低下などが現れます。このような場合は、肢体の障害用診断書が重要になります。

日本年金機構の肢体の障害認定基準では、上肢・下肢など広範囲に障害がある場合、「肢体の機能の障害」として認定するとされています。また、障害の程度は、関節可動域、筋力、巧緻性、速さ、耐久性を考慮し、日常生活における動作の状態から総合的に認定するとされています。

日常生活動作の具体化が大切

肢体の障害では、「歩けない」「手が使いにくい」だけでは不十分です。診断書や病歴・就労状況等申立書では、実際にどの動作がどの程度できないのかを具体的に記載する必要があります。

手指・上肢で確認すべきこと

日本年金機構の基準では、手指の機能として、つまむ、握る、タオルを絞る、ひもを結ぶなどが例示されています。また、上肢の機能として、さじで食事をする、顔を洗う、用便の処置、上衣の着脱、ボタンをとめるなどが挙げられています。

多系統萎縮症では、手の震え、こわばり、動作緩慢、失調により、箸が使えない、字が書けない、スマートフォン操作が難しい、服のボタンがとめられない、食器を落とすなどの支障が生じることがあります。これらは申立書で具体的に説明すべき重要な情報です。

下肢・歩行で確認すべきこと

下肢の機能では、片足で立つ、屋内を歩く、屋外を歩く、立ち上がる、階段を上る、階段を下りるなどが評価対象として示されています。

多系統萎縮症では、ふらつきや姿勢反射障害により、屋内でも壁や家具を伝って歩く、屋外では杖や歩行器が必要、階段昇降が危険、転倒を繰り返す、公共交通機関の利用が困難といった状態が起こります。単に「歩行困難」と書くのではなく、何メートル歩けるか、どの補助具を使うか、転倒頻度、外出時に付き添いが必要かまで整理することが大切です。

嚥下障害・言語障害・呼吸障害がある場合

診断書の種類を慎重に選ぶ

多系統萎縮症では、進行に伴って、飲み込みにくさ、むせ込み、誤嚥性肺炎、話しにくさ、声が出にくい、睡眠時の呼吸障害などが問題になることがあります。難病情報センターでも、多系統萎縮症では嚥下障害を有する人が多く、誤嚥による肺炎や低栄養に注意が必要とされています。

日本年金機構の診断書・関連書類のページでは、肢体の障害用の診断書のほか、聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用の診断書、血液・造血器・その他の障害用の診断書などが案内されています。

主な障害に合わせた診断書を選ぶ

実務上は、主な障害が歩行・手足・体幹機能であれば「肢体の障害用診断書」が中心になります。一方で、嚥下障害、構音障害、音声障害が重い場合には、そしゃく・嚥下・言語機能の診断書の併用や、主症状に応じた診断書選択を検討します。

また、呼吸障害が進行し、人工呼吸器、気管切開、胃ろうなどがある場合は、障害認定日の取り扱いにも注意が必要です。日本年金機構の神経系統の障害認定基準では、根本的治療方法がなく、今後の回復が期待できない疾病で、初診日から6か月経過後に気管切開下での人工呼吸器使用や胃ろう等の恒久的措置が行われ、日常の用を弁ずることができない状態である場合、原則として1年6か月を待たずに障害認定日として取り扱う旨が示されています。

障害年金申請で重要な3つの要件

初診日要件

障害年金では、まず初診日の確認が必要です。初診日とは、障害の原因となった病気について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日のことです。

多系統萎縮症では、最初から「多系統萎縮症」と診断されるとは限りません。初期には、ふらつき、パーキンソン症状、排尿障害、立ちくらみ、めまい、転倒などで、脳神経内科、内科、整形外科、泌尿器科、耳鼻科などを受診している場合があります。

初診日の整理で注意する点

「多系統萎縮症と診断された日」ではなく、現在の障害につながる症状で初めて医療機関を受診した日が初診日となる可能性があります。したがって、診断名が確定した日だけでなく、最初の症状、最初の受診科、紹介状、検査歴、MRI所見、投薬歴を確認することが重要です。

保険料納付要件

初診日が確認できたら、その前日時点で保険料納付要件を満たしているかを確認します。初診日に国民年金加入中であれば障害基礎年金、厚生年金加入中であれば障害厚生年金の対象となります。

障害厚生年金では3級や障害手当金の可能性がありますが、障害基礎年金には3級がありません。そのため、初診日が国民年金期間か厚生年金期間かは、受給可能性に大きく影響します。

障害状態該当要件

最後に、障害認定日または請求日時点で、障害等級に該当する状態かを確認します。多系統萎縮症は進行性疾患のため、認定日当時は軽くても、現在は重くなっていることがあります。その場合は、事後重症請求を検討します。

病歴・就労状況等申立書の書き方

進行の経過を時系列で整理する

多系統萎縮症の申立書では、症状の進行を時系列で整理することが重要です。

記載すべき経過

  • 最初に出た症状
  • 最初に受診した医療機関
  • 検査内容、MRI所見、診断名の変化
  • 薬の効果、リハビリの内容
  • 歩行状態の変化
  • 転倒の頻度
  • 杖、歩行器、車いすの使用開始時期
  • 嚥下障害、構音障害、排尿障害、起立性低血圧の出現時期
  • 家族の介助が必要になった時期
  • 仕事を休職・退職・軽作業化した時期

「できる・できない」ではなく「どのように困るか」を書く

申立書では、「歩ける」「食べられる」「会話できる」と書くだけでは、実態が伝わりません。

たとえば、歩行については、「屋内は壁や家具につかまって数メートル移動できるが、方向転換時にふらつき転倒する」「屋外は杖を使用しても単独では危険で、家族の付き添いが必要」などと記載します。

食事については、「むせ込みがあるため食事に時間がかかる」「水分でむせる」「刻み食・とろみが必要」「誤嚥性肺炎の既往がある」など、具体的な支障を記載します。

就労については、「勤務しているかどうか」だけでなく、通勤、移動、立位保持、パソコン操作、筆記、会話、電話対応、疲労、転倒リスク、職場配慮の内容を整理します。

医師に診断書を依頼するときのポイント

診察室で見えにくい生活実態を伝える

多系統萎縮症の障害年金申請では、診断書の内容が非常に重要です。しかし、診察室では短時間の歩行や会話だけで、日常生活全体の困難が十分に伝わらないことがあります。

診断書を依頼する前に、次の内容をメモにまとめ、主治医へ伝えることが有効です。

医師に伝えたい内容

  • 家の中での移動方法
  • 外出時の付き添いの有無
  • 転倒回数と転倒場所
  • 杖、歩行器、車いすの使用状況
  • 食事、排泄、更衣、入浴の介助内容
  • むせ込み、誤嚥、食事形態
  • 排尿障害、失禁、導尿、夜間トイレ
  • 起立性低血圧、失神、立ちくらみ
  • 構音障害、会話の聞き取りにくさ
  • 就労上の配慮、欠勤、休職、退職の状況

診断書と申立書の内容に大きな食い違いがあると、実態が正しく伝わりにくくなります。医師には、病名だけでなく、生活上の支障を具体的に把握してもらうことが大切です。

多系統萎縮症の障害年金申請で失敗しやすい点

初診日を「確定診断日」と考えてしまう

多系統萎縮症では、確定診断までに時間がかかることがあります。最初はパーキンソン病、脊髄小脳変性症、めまい、整形外科的疾患、泌尿器疾患などとして受診していることもあります。初診日を誤ると、納付要件や年金種類に影響します。

症状を軽く書きすぎる

「何とかできている」と書いてしまうと、実際には家族の支援や補助具があって成り立っている生活が、独力で可能であるかのように見えてしまいます。障害年金では、支援がある状態だけでなく、支援がなければどうなるかを具体的に示すことが重要です。

就労しているため無理だと判断してしまう

多系統萎縮症でも、就労中に障害年金を申請できる場合があります。特に障害厚生年金3級では、労働に著しい制限があるかどうかが重要です。短時間勤務、配置転換、通勤配慮、危険作業の免除、頻回な休憩、周囲の見守りなどがある場合は、その実態を整理する必要があります。

まとめ|多系統萎縮症の障害年金は早めの準備が大切です

多系統萎縮症は、ふらつき、歩行障害、手指の不自由、嚥下障害、言語障害、自律神経症状などにより、日常生活や就労に大きな影響を及ぼす進行性の神経難病です。

障害年金の申請では、病名だけでなく、次の点を丁寧に整理することが重要です。

申請前の確認ポイント

  • 初診日はいつか
  • 初診日に加入していた年金制度は何か
  • 保険料納付要件を満たしているか
  • 主な障害は肢体、嚥下・言語、呼吸、自律神経のどれか
  • 診断書の種類は適切か
  • 歩行、手指、食事、排泄、更衣、入浴、外出の支障を具体化できているか
  • 就労中の場合、どのような制限や配慮があるか
  • 家族の介助・見守りがなければ生活がどうなるか

多系統萎縮症は症状が進行するため、「まだ申請は早い」と思っているうちに、初診日の証明や過去の医療記録の確認が難しくなることもあります。障害年金を検討する場合は、早い段階で初診日、受診歴、生活状況、就労状況を整理しておくことをおすすめします。

広島・福山で多系統萎縮症による障害年金申請をご検討の方は、診断書依頼前の段階からご相談ください。初診日の確認、診断書の選択、病歴・就労状況等申立書の作成まで、受給可能性を踏まえて丁寧にサポートいたします。

「多系統萎縮症で障害年金を申請するためのガイド」の関連記事はこちら