多発性硬化症で障害年金を申請するための完全ガイド
多発性硬化症は障害年金の対象になる病気です
多発性硬化症とは
多発性硬化症は、脳・脊髄・視神経などの中枢神経に炎症が起こり、神経を覆う髄鞘が障害される「脱髄疾患」の一つです。症状は一度だけで終わるとは限らず、再発と寛解を繰り返すことが多く、病変ができる場所によって、視力障害、歩行障害、手足のしびれ、運動麻痺、排尿障害、疲労感、認知機能の低下など、さまざまな症状が現れます。難病情報センターでも、多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患であり、神経症状の再発を繰り返す病気と説明されています。
多発性硬化症で障害年金を申請する場合に大切なのは、「多発性硬化症という病名があること」だけではありません。障害年金では、病名そのものよりも、その病気によって日常生活や労働にどの程度の制限が生じているかが重視されます。つまり、歩行、立位保持、手指の動作、視力、排尿・排便、疲労、認知機能、就労継続の困難さなどを、具体的に証明していくことが重要です。
障害年金で見られる多発性硬化症の主な症状
視力・視野の障害
多発性硬化症では、視神経に病変が生じることで、視力低下、視野欠損、目を動かしたときの痛みなどが出ることがあります。片眼または両眼の見えにくさが残る場合、眼の障害として評価される可能性があります。
歩行障害・運動麻痺
脊髄や小脳に病変がある場合、まっすぐ歩けない、ふらつく、転倒しやすい、杖や歩行器が必要になる、階段昇降が困難になるなどの症状が出ることがあります。難病情報センターでは、小脳が障害されるとまっすぐ歩けない、手が震える、脊髄が障害されると手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿・排便障害などが起こると説明されています。
しびれ・疼痛・疲労感
多発性硬化症では、手足のしびれ、痛み、感覚障害、強い疲労感が続くことがあります。痛みや疲労は外見から分かりにくいため、単に「痛い」「疲れる」と書くだけでは不十分です。どの程度の頻度で、どのくらい持続し、家事・通院・入浴・買い物・就労にどのような支障があるかを具体化する必要があります。
排尿・排便障害
脊髄病変により、尿失禁、頻尿、排尿困難、便秘、排便障害が残ることがあります。障害年金の申請では、排尿・排便障害そのものだけでなく、外出制限、仕事中の離席、介助や見守りの必要性、日常生活の不安定さも重要な事情になります。
認知機能・精神面への影響
大脳に病変がある場合、記憶力、注意力、判断力、処理速度などに影響が出ることがあります。仕事でミスが増えた、複数の作業を同時にできない、指示を忘れる、疲労により集中が続かないなどの事情がある場合は、就労状況として具体的に整理することが大切です。
日本年金機構の障害認定基準での考え方
多発性硬化症は主に「神経系統の障害」として検討されます
日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」では、多発性硬化症という病名だけで独立した認定基準が設けられているわけではありません。症状に応じて、神経系統の障害、肢体の障害、眼の障害、平衡機能、音声・言語機能、そしゃく・嚥下機能、精神の障害など、実際に残っている障害に応じて判断されます。障害認定基準の一覧でも、第7節に肢体の障害、第8節に精神の障害、第9節に神経系統の障害が掲げられています。
神経系統の障害の認定要領では、肢体の障害は「第7節 肢体の障害」の認定要領に基づいて認定するとされています。また、脳の器質障害については、神経障害と精神障害を区別して考えることが困難な場合があり、原則として諸症状を総合し、全体像から総合的に判断するとされています。
等級の基本的な考え方
多発性硬化症で障害年金を申請する場合、等級はおおむね次のような考え方で整理します。
|
等級 |
状態の目安 |
|---|---|
|
1級 |
日常生活の多くに介助が必要で、活動範囲がベッド周辺や居室内に限られるような状態 |
|
2級 |
日常生活に著しい制限があり、外出・家事・身の回りの動作・就労が大きく制限される状態 |
|
3級 |
厚生年金加入中に初診日があり、労働に著しい制限がある状態 |
|
障害手当金 |
厚生年金加入中に初診日があり、一定の障害が残っているが3級より軽い状態 |
神経系統の障害の認定基準では、1級は「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」、2級は「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」、3級は「労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度」とされています。
多発性硬化症で障害年金を申請するときの3つの要件
1 初診日要件
障害年金では、最初に医師の診療を受けた「初診日」が非常に重要です。多発性硬化症の場合、最初から病名が確定していないことも多く、初めは「視力低下」「しびれ」「めまい」「歩行困難」「排尿障害」などで眼科、脳神経内科、整形外科、泌尿器科などを受診していることがあります。
この場合、病名が多発性硬化症と確定した日ではなく、障害の原因となった症状で初めて医療機関を受診した日が初診日となる可能性があります。初診日によって、障害基礎年金になるのか、障害厚生年金になるのか、3級まで対象になるのかが変わります。
2 保険料納付要件
障害基礎年金・障害厚生年金を受けるには、原則として、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と免除期間を合わせた期間が3分の2以上あることが必要です。ただし、一定の場合には直近1年間に未納がなければよい特例もあります。日本年金機構の障害基礎年金・障害厚生年金の受給要件でも、この納付要件が示されています。
3 障害状態要件
障害認定日または請求時点で、障害等級に該当する程度の障害状態にあることが必要です。日本年金機構の用語説明では、障害認定日は、原則として初診日から1年6カ月を過ぎた日、または1年6カ月以内に症状が固定した場合はその日とされています。
多発性硬化症は再発と寛解を繰り返す病気であるため、「一時的に悪かった時期」だけでなく、障害認定日頃や現在の状態として、どのような症状が継続しているか、どの程度生活や労働が制限されているかを整理することが大切です。
請求方法は「認定日請求」と「事後重症請求」を検討する
障害認定日請求
初診日から1年6カ月を経過した障害認定日の時点で、すでに障害等級に該当する状態であった場合は、障害認定日請求を検討します。過去にさかのぼって請求できる場合がありますが、年金の時効により、実際に受け取れるのは原則として最大5年分までです。日本年金機構も、障害認定日に法令に定める障害状態にある場合は障害認定日の翌月分から受給できる一方、遡及して受けられる年金は時効により5年分が限度と説明しています。
事後重症請求
障害認定日の時点では症状が軽かったものの、その後に再発や進行により状態が悪化した場合は、事後重症請求を検討します。事後重症請求では、請求日の翌月分から年金が支給されます。日本年金機構では、障害認定日に該当しなかった方でも、その後症状が悪化して障害状態になったときは請求日の翌月から受給できる場合があると説明されています。
診断書で重要になるポイント
症状名だけでなく「生活上の支障」を書いてもらう
多発性硬化症では、MRI所見や神経学的所見だけでなく、日常生活や就労への影響が重要です。診断書には、筋力低下、感覚障害、歩行障害、ふらつき、視力障害、排尿障害、疲労、疼痛、認知機能低下などを、できるだけ具体的に記載してもらう必要があります。
日本年金機構は、障害等級を適切に決定するためには、診断書の内容ができる限り詳細かつ具体的に記載されていることが重要であると説明しています。
使用する診断書の種類
多発性硬化症では、症状に応じて診断書の種類を選びます。歩行障害、手足の麻痺、筋力低下、巧緻運動障害が中心であれば「肢体の障害用」の診断書が使われることが多いです。視力・視野障害が中心であれば眼の障害用、嚥下や言語障害が強い場合は該当する診断書、認知機能や精神症状が強い場合は精神の障害用の診断書を検討することもあります。日本年金機構の診断書ページでは、肢体、精神、眼、聴覚・平衡・そしゃく・嚥下・言語機能など、障害の種類ごとの診断書が案内されています。
病歴・就労状況等申立書で書くべきこと
再発と寛解の経過を時系列で整理する
多発性硬化症では、症状が良くなったり悪くなったりするため、病歴・就労状況等申立書では時系列の整理が非常に重要です。初発症状、診断までの経過、再発の時期、入院、ステロイドパルス療法、リハビリ、服薬、仕事の休職・退職、家族の支援内容を具体的に書きます。
「できる日」と「できない日」の差を書く
多発性硬化症の申請で注意したいのは、調子の良い日だけを基準にしないことです。短時間なら歩けるが翌日は寝込む、通院後は疲労で家事ができない、暑さで症状が悪化する、午前中は動けても午後は横になる、仕事後は生活動作ができなくなるなど、波のある症状を具体的に説明することが重要です。
家族の支援がなければどうなるかを書く
家族が買い物、通院同行、服薬管理、食事準備、入浴時の見守り、転倒予防、家事、金銭管理などを支援している場合は、その内容を明確にします。単に「家族が手伝っている」ではなく、「支援がなければ食事が不規則になる」「転倒リスクが高い」「通院できない」「服薬を忘れる」「外出できない」など、支援がない場合の具体的な不利益を書くことが大切です。
多発性硬化症で障害年金を受けやすくするための確認事項
申請前のチェックリスト
- 初診日がいつか確認できているか
- 初診時の医療機関で受診状況等証明書が取れるか
- 初診日の年金加入制度が国民年金か厚生年金か確認したか
- 保険料納付要件を満たしているか
- 障害認定日頃の診断書が取得できるか
- 現在の症状が診断書に具体的に反映されているか
- 歩行、手指動作、視力、排尿、疲労、疼痛、認知機能の支障を整理したか
- 就労している場合、配慮内容や休職・欠勤・業務制限を説明できるか
- 家族の支援内容を具体的に書けるか
- 再発・寛解の経過を時系列で整理したか
まとめ
多発性硬化症は、障害年金の対象となり得る病気です。ただし、申請では「病名」だけではなく、症状により日常生活や労働がどの程度制限されているかを、診断書と病歴・就労状況等申立書で具体的に示す必要があります。
特に、歩行障害、手足の麻痺、しびれや疼痛、視力障害、排尿障害、強い疲労感、認知機能低下、再発による生活の不安定さがある場合は、障害年金の可能性を検討する価値があります。
多発性硬化症は症状の波が大きく、外見からは困難さが伝わりにくい病気です。そのため、申請では「何ができないか」だけでなく、「無理をすればできるが、その後どうなるか」「支援がなければ生活がどう崩れるか」「就労がどのような配慮で成り立っているか」まで丁寧に整理することが、認定の大きなポイントになります。
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