循環器疾患の障害年金申請で 診断書を確認するチェックポイント

 

確認の中心 
病名や手術歴だけでなく、臨床症状、客観的検査結果、一般状態、治療経過、日常生活及び労働能力が相互に整合しているかを確認します。

 

循環器疾患で障害年金を請求する場合、原則として「診断書(循環器疾患の障害用・様式第120号の6-(1))」を使用します。循環器疾患の障害認定では、病名や手術歴だけで等級が決まるわけではありません。

胸痛、動悸、呼吸困難、浮腫などの臨床症状、心電図・心エコー・BNP等の検査結果、治療内容、一般状態、日常生活への制限、労働能力などが総合的に審査されます。そのため、空欄や記載漏れに加え、各欄の内容が互いに矛盾していないかを確認することが重要です。

1.循環器疾患の障害認定の基本を確認する

障害認定の対象となる主な循環器疾患

障害認定基準上の「心疾患」は、心臓だけでなく血管を含む循環器疾患を指します。主な対象は次のとおりです。

  • 弁疾患
  • 心筋疾患
  • 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
  • 難治性不整脈
  • 大動脈疾患
  • 先天性心疾患・重症心不全
  • 肺血栓塞栓症・肺動脈性肺高血圧症

高血圧症については、心疾患とは別に「高血圧症による障害」の認定基準があります。ただし、高血圧症によって心疾患を合併している場合は、心疾患の認定要領により判断されます。

病名ではなく慢性的な心機能障害が審査される

循環器疾患の認定では、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を中心に評価します。同じ病名であっても、治療後に通常の生活ができる人と、軽い動作でも息切れが生じる人とでは障害の程度が異なります。

  • 病名、治療歴及び手術歴
  • 自覚症状・他覚所見
  • 心電図、心エコー等の客観的検査結果
  • 一般状態、日常生活及び労働能力の制限

2.傷病名・初診日・現症日を確認する

傷病名は請求対象となる疾患と一致しているか

「障害の原因となった傷病名」には、障害年金の請求対象となる傷病名が記載されているかを確認します。単に「心不全」とするだけでなく、その原因となる拡張型心筋症、虚血性心疾患、大動脈弁狭窄症等が分かる記載が望まれます。受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書及び診断書の間で、傷病名や発症経過に矛盾がないことも重要です。

「初めて医師の診療を受けた日」が正しいか

診断書の初診日は、診断書作成医療機関を初めて受診した日ではありません。障害の原因となった傷病について、本人が初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。高血圧症から心不全に進行した場合、狭心症から心筋梗塞を発症した場合、先天性心疾患が成人後に悪化した場合などは、どの受診日が初診日になるか慎重に検討します。

初診日が「本人の申立て」による場合は、診療録による確認か本人申立てかの区別と、申立年月日の記載を確認します。

現症日が請求目的に合っているか

診断書には、障害状態を評価した現症日が記載されます。障害認定日請求、事後重症請求、額改定請求、更新では証明すべき時点が異なります。どの時点の障害状態を証明する診断書かを明確にし、現症日が所定の期間内に入っているかを確認します。

3.治療経過・手術歴の記載を確認する

現在までの治療経過が具体的か

「現在までの治療の内容、期間、経過、その他参考となる事項」は、発症から現在までの重症度の推移を把握する重要な欄です。次の事項が記載されているかを確認します。

  • 発症時の症状、受診及び診断の経過
  • 心不全による入院、再入院、救急搬送歴
  • カテーテル治療、バイパス手術、弁置換術等の実施
  • ペースメーカー、ICD、CRT、CRT-D等の装着
  • 利尿薬、抗不整脈薬、抗凝固薬等の治療
  • 治療後も残存する症状、再狭窄、合併症及び予後

手術を受けた事実だけでなく、術後もどのような症状や機能障害が残っているかが重要です。診療回数は原則として現症日前1年間の回数を記載し、入院日数1日は診療回数1回として扱います。

4.臨床所見を確認する

自覚症状の有無と程度

循環器疾患用診断書では、動悸、呼吸困難、息切れ、胸痛、咳、痰、失神について「無・有・著」を確認します。「息切れ有」だけでは支障の程度が分かりません。室内歩行、階段、入浴、着替え等のどの動作で症状が出現するのかが、日常生活・労働能力欄に具体的に示されていることが望まれます。

他覚所見が自覚症状と整合しているか

他覚所見では、チアノーゼ、浮腫、頸静脈怒張、ばち状指、尿量減少、器質的雑音等を確認します。利尿薬等により現症日に浮腫が抑えられている場合でも、体重増加、過去の増悪、入院歴等から心不全の状態が分かるときは、治療経過欄や備考欄で補足されているかを確認します。

5.一般状態区分とNYHA心機能分類を確認する

一般状態区分表は障害認定の中心項目

一般状態区分は、日常生活能力をアからオまでの五段階で評価します。

区分

一般状態の目安

身体活動能力

無症状で、発病前と同程度に社会活動ができる

おおむね6Mets以上

肉体労働は制限されるが、歩行・軽労働・座業はできる

4Mets以上6Mets未満

身の回りのことはできるが軽労働はできず、日中の50%以上は起居

3Mets以上4Mets未満

しばしば介助が必要。日中の50%以上は就床し、単独外出はほぼ不可能

2Mets以上3Mets未満

常時介助が必要で終日就床し、活動範囲がベッド周辺に限られる

2Mets未満

出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節を基に作成

一般状態区分ウ・エが2級の例示要件となる疾患が多く、イ・ウが3級の例示要件として用いられています。検査値が重い一方で一般状態が「ア」、あるいは軽い検査所見で一般状態が「エ」とされている場合は、その理由が治療経過や備考から分かるかを確認します。

NYHA心機能分類との整合性

  • Ⅰ度:通常の身体活動で症状がない
  • Ⅱ度:通常の身体活動で症状が出現する
  • Ⅲ度:通常以下の軽い身体活動でも症状が出現する
  • Ⅳ度:安静時にも症状があり、身体活動で増悪する

例えばNYHAⅢ度であるのに一般状態区分が「ア」、労働能力が「制限なし」であれば整合性に疑問が生じます。反対に、就労中でも大幅な職場配慮や家族援助によって生活が維持されている場合は、その支援内容を具体的に記載します。

6.検査所見と添付資料を確認する

異常検査所見AからIの確認

  • A:安静時心電図に一定以上のST低下または深い陰性T波がある
  • B:6Mets未満相当の負荷心電図等で明らかな心筋虚血所見がある
  • C:心胸郭係数60%以上、肺静脈性うっ血または間質性肺水腫がある
  • D:心エコーで中等度以上の左室肥大、心拡大、弁膜症、収縮能低下、拡張能制限等がある
  • E:重症な頻脈性または徐脈性不整脈がある
  • F:左室駆出率(EF)が40%以下
  • G:BNPが200pg/mL相当を超える
  • H:左主幹部50%以上、または主要冠動脈3本に75%以上の狭窄がある
  • I:陳旧性心筋梗塞の心電図所見があり、現在も狭心症状がある

異常心電図所見が記載されている場合は、原則として心電図のコピーを添付します。検査日が現症日から大きく離れていないか、診断書の数値と添付資料の数値が一致しているかも確認します。

EFだけで軽症と判断しない

EF40%以下は重要な異常所見ですが、EFが保たれていても心不全を生じることがあります。特に拡張不全型心不全や肥大型心筋症では、EFだけでは重症度を適切に評価できない場合があります。左室肥大、拡張能、左室流出路圧較差、肺動脈圧、BNP・NT-proBNP、心電図所見及び臨床症状を総合して確認します。なお、NT-proBNPはBNPと数値の尺度が異なるため、BNPの基準値をそのまま当てはめないよう注意します。

7.疾患別所見を確認する

弁疾患

人工弁装着は原則3級相当の例示があります。複数の人工弁を装着していても、装着の事実だけでは原則3級です。ただし、術後6か月以上経過しても多数の臨床所見、異常検査所見及び一般状態区分ウ・エに該当する場合は、2級の可能性があります。人工弁の有無だけでなく、術後に残る心不全症状を確認します。

心筋疾患

拡張型心筋症では、EF、BNP、心拡大、肺うっ血、浮腫等を確認します。肥大型心筋症ではEFが保たれることが多いため、心筋肥大、拡張機能障害、流出路狭窄及び失神等を確認します。心筋疾患の等級例示は、検査所見だけでなく、一定数の臨床所見と一般状態区分を組み合わせています。

虚血性心疾患

心筋梗塞・狭心症では、冠動脈狭窄の程度、心筋虚血所見、心不全症状、狭心症状が軽労作時か安静時かを確認します。カテーテル治療や冠動脈バイパス術後の場合も、治療済みという事実だけでなく、再狭窄、梗塞後狭心症、心機能低下等が残っているかを確認します。

難治性不整脈

難治性不整脈とは、適切な治療を受けても改善せず、放置すると心不全や突然死を起こす危険性が高い不整脈をいいます。ペースメーカーまたはICDの装着は3級相当の例示があります。心房細動だけでは原則として認定対象になりませんが、心不全を合併している場合やペースメーカーを要する場合は対象となる可能性があります。

大動脈疾患

胸部大動脈解離または胸部大動脈瘤に対して人工血管を挿入し、一般状態区分イ・ウに該当する場合は3級相当の例示があります。ステントグラフトも人工血管に含まれます。大動脈瘤があるだけでは原則として認定対象になりませんが、周辺臓器への圧迫、手術後遺症、難治性高血圧等がある場合は総合的に判断されます。

重症心不全と医療機器

障害認定基準では、心臓移植及び人工心臓は1級、CRT及びCRT-Dは2級の例示があります。ペースメーカー、ICD、人工弁を装着した場合は、初診日から1年6か月以内であれば、その装着日が障害認定日となる特例があります。装着年月日、医療機器の種類及び装着後の経過を確認します。

高血圧症

単に血圧が高いだけでは障害年金の認定対象になりません。高血圧性網膜症、脳障害、心疾患、腎障害、大動脈解離・大動脈瘤等の臓器障害や合併症が重要です。複数回の血圧、降圧薬の種類数、尿蛋白、一過性脳虚血発作、眼底所見、血清クレアチニン値及び合併症の記載を確認します。

8.日常生活活動能力と労働能力を確認する

「制限あり」だけで終わらせない

「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」は、障害状態を具体化する重要な欄です。次の実態が記載されているかを確認します。

  • 平地を何メートル歩くと休憩が必要になるか
  • 階段昇降、入浴、着替えで息切れや動悸が生じるか
  • 買い物、掃除、調理等を一人で行えるか
  • 日中に横になっている時間、単独外出の可否
  • 家族による送迎、家事、服薬管理等の支援
  • 心不全増悪を避けるため禁止・制限されている活動

就労している場合は勤務上の配慮を確認する

就労中であっても直ちに障害年金の対象外になるわけではありません。実際の労働能力を判断できるよう、勤務時間・日数の短縮、肉体労働・夜勤・残業・出張の免除、座位中心の業務、休憩増加、欠勤、同僚の補助、在宅勤務及び送迎等を具体的に確認します。診断書に「就労可能」と記載されていても、申立書では実際の勤務条件と配慮内容を説明します。

9.提出前の最終チェック

□ 傷病名、初診日、現症日に誤りがない

□ 現症日が請求目的に合った期間内にある

□ 治療経過、入院歴、手術歴が具体的に記載されている

□ 自覚症状と他覚所見に記載漏れがない

□ NYHA分類と一般状態区分が実態に合っている

□ 心電図、心エコー、EF、BNP等の検査日と数値が記載されている

□ 異常心電図がある場合、心電図のコピーが添付されている

□ 疾患別所見の該当欄、医療機器の種類・装着年月日が記載されている

□ 日常生活及び労働能力が具体的に記載されている

□ 予後欄、備考欄、医療機関所在地、診療科、医師氏名を確認した

□ 受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書との間に矛盾がない

まとめ

循環器疾患の障害年金では、「EFが低い」「人工弁を装着した」「ペースメーカーが入っている」という一つの事実だけでなく、臨床症状、異常検査所見、一般状態区分、治療経過及び生活・就労上の制限を総合して障害等級が判断されます。

特に重要なのは、検査結果が実際の日常生活の困難さにどのようにつながっているかを診断書上で明確にすることです。記載が簡潔すぎる場合には、本人や家族から医師へ、普段の歩行能力、家事、外出、就労及び介助状況を具体的に伝えることが重要となります。

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