平衡機能の障害年金申請診断書チェックポイント

様式第120号の2を確認するための実務資料

平衡機能の障害は、病名やめまいの訴えだけで等級が決まるものではありません。診断書では、閉眼での起立・立位保持、開眼での直線10メートル歩行、眼振その他の平衡機能検査、日常生活と労働への制限が相互に整合しているかを確認する必要があります。本資料は、請求前に診断書の記載漏れや表現不足を見つけ、必要に応じて医師へ事実を補足して伝えるためのチェックポイントをまとめたものです。

診断書の内容を請求人側で変更することはできません。訂正や追記が必要な場合は、受診記録、検査結果、本人・家族から聴取した事実を整理し、最終的な医学的判断と記載は診断書作成医に委ねます。

1 使用する診断書と確認の前提

1 1 診断書様式

平衡感覚の障害には、原則として「診断書(聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用)」(様式第120号の2)を使用します。日本年金機構は、障害年金の請求に使用する診断書を原則A3両面で印刷するよう案内しています。実際の提出では、請求する傷病、併存障害、初診日の位置づけによって適切な様式が変わる場合があるため、平衡機能障害以外の運動麻痺、失調、聴覚障害などが主症状であるときは、使用様式と併合認定の扱いを事前に確認します。

1 2 現症年月日と請求目的

診断書が障害認定日請求、事後重症請求、額改定請求、更新のいずれに用いられるかを確認します。現症年月日は、対象となる時点を示す重要事項です。現在の状態を証明する診断書と、障害認定日当時の状態を証明する診断書を取り違えないようにします。日本年金機構の記入上の注意では、現症年月日は請求日または障害認定日から3か月以内の現症日を記入するとされています。遡及請求などでは必要な診断書の枚数と対象期間を年金事務所等で確認します。

□ 現症年月日が請求目的に合っている

□ 診断書の作成日ではなく、診察に基づく現症日が記載されている

□ 氏名、生年月日、住所、傷病名、初診日などの基本事項に誤記がない

2 障害認定基準と等級判断の要点

2 1 等級ごとの基準

区分

平衡機能の状態

確認の中心

2級

閉眼で起立・立位保持が不能、または開眼で直線歩行中に10メートル以内で転倒する、若しくは著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ない程度

立位保持と10メートル歩行の実際、日常生活での移動制限や介助

3級

中等度の平衡機能障害があり、労働能力が明らかに半減しているもの。閉眼で起立・立位保持が不安定で、開眼で10メートルを歩くと多少転倒しそうになったりよろめいたりするが、どうにか歩き通す程度

歩行所見に加え、職務遂行能力がどの程度低下したか

3級又は障害手当金

めまいの自覚症状が強く、眼振その他の平衡機能検査で明らかな異常所見があり、労働が制限される、または制限を加える必要がある程度

強い自覚症状、客観的異常、労働制限の三要素

2級は障害基礎年金と障害厚生年金の対象となり得ますが、3級と障害手当金は厚生年金保険の制度です。初診日に加入していた年金制度を確認し、国民年金初診の事案で3級相当の所見だけを整えても、障害基礎年金3級は存在しない点に注意します。なお、平衡機能単独の基準には1級の具体的例示がなく、他の障害が併存する場合は併合等の検討が必要です。

2 2 原因傷病と併存障害

平衡機能障害の原因は内耳性に限られず、脳性のものも含まれます。診断書では、原因傷病、発症時期、画像・神経学的所見、治療経過がつながっているかを確認します。内耳疾患による聴覚障害と平衡機能障害が併存することもあり、その場合は併合認定の対象となり得ます。難聴、耳鳴、麻痺、失調、視覚障害などがあるときは、各障害が同一傷病によるものか、別傷病か、同じ初診日として扱うのかを整理します。

3 平衡機能欄の確認ポイント

3 1 閉眼での起立と立位保持

診断書の平衡機能欄では、「閉眼での起立・立位保持の状態」について、起立不能、立位保持不能、不安定、安定のいずれかを選択します。起立そのものができないのか、立ち上がれるが姿勢を保てないのか、支持物や介助があれば可能なのかを区別します。診察室で一時的に立てたという事実だけでなく、転倒の危険、ふらつきの方向、保持できる時間、壁・机・手すりへの依存、介助の要否が備考欄等に具体化されているか確認します。

□ 該当する選択肢に一つだけ明確に印が付いている

□ 杖や手すり、介助者を使用した条件が明記されている

□ 症状に日内変動や発作性がある場合、検査時と普段の差が説明されている

3 2 開眼での直線10メートル歩行

10メートル歩行は、2級と3級の状態を分ける中心的な所見です。診断書の選択肢は、歩行不能、転倒または著しくよろめいて中断、多少転倒しそうになったりよろめいたりするがどうにか歩き通す、正常の四段階です。チェックだけでなく、歩行距離、途中で中断した位置、転倒・よろめきの回数、歩行速度、方向偏倚、補助具、見守りや身体介助の有無を記載できると状態が伝わりやすくなります。

診察室内の短距離歩行と、屋外での実用的な移動能力は一致しないことがあります。人混み、暗所、段差、坂道、方向転換、階段、乗り物の揺れ、頭位変換などで症状が増悪する場合は、日常生活能力欄で補足します。

3 3 自覚症状と他覚所見

「めまいがある」とだけ記載されている診断書では、頻度、強さ、持続時間、誘因、回復までの時間が分かりません。回転性、浮動性、動揺感などの性状、毎日・週何回などの頻度、数分・数時間・終日などの持続、起床・歩行・頭位変換・入浴・疲労などの誘因、悪心や嘔吐、転倒・転落歴を整理します。発作のない時間帯でも残るふらつきや歩行不安定があれば、それも区別して記載します。

他覚所見では、眼振その他の平衡機能検査に明らかな異常があるかが重要です。実施されている場合は、眼振所見、ロンベルグ検査、マン検査、足踏み検査、重心動揺検査、温度刺激検査、眼球運動検査などについて、検査名、実施日、左右差、数値または判定を確認します。検査名だけ、あるいは「異常あり」だけで終わらず、等級判断につながる所見が読み取れることが望まれます。未実施の検査を請求人側で推測して補うことはできません。

4 診断書全体で確認する事項

4 1 傷病の発生から現在までの経過

発症日、初診日、確定診断、治療開始、入院・手術、症状の増悪や固定、就労状況の変化が時系列でつながっているか確認します。初診時所見と現在の傷病名に違いがある場合は、診断が変わった経緯や医学的な連続性が分かる記載が必要です。病歴・就労状況等申立書の年月と診断書の経過が食い違うと、初診日や障害状態の判断に疑問が生じます。

4 2 治療内容と治療効果

投薬、リハビリテーション、手術、生活指導、補助具の使用状況を確認します。治療を継続しても症状が残るのか、薬で一定時間のみ軽減するのか、副作用で眠気や集中力低下が生じるのかを区別します。通院頻度が少ない場合は、症状が軽いからではなく、外出困難、付き添い確保の困難、治療法が限られているなどの事情がないかを確認します。

4 3 日常生活能力

現症時の日常生活活動能力は、「できる・できない」の結論だけでなく、誰のどのような支援で成り立っているかを具体化します。屋内移動、トイレ、入浴、更衣、調理、買物、受診、公共交通機関、階段、外出を確認し、転倒防止のための見守り、手すり、杖、車いす、家族の送迎や付き添いを記載します。独居であっても、宅配、訪問支援、家族の定期訪問、外出回避などによって生活が維持されていることがあります。

□ 直近1年程度の転倒回数、けが、救急受診の有無が整理されている

□ 入浴や階段など危険度の高い場面での支援が記載されている

□ 支援や環境調整がなければ何ができなくなるかが明らかになっている

4 4 労働能力

3級または障害手当金では、平衡機能障害が労働に与える影響の記載が特に重要です。就労の有無だけで判断せず、職種、勤務時間、出勤日数、欠勤・遅刻・早退、作業速度、休憩、配置転換、在宅勤務、通勤方法、同僚の援助を確認します。高所作業、運転、機械操作、重量物運搬、長時間の立位・歩行など、事故につながる業務を禁止または免除されている場合は具体的に記載します。

「軽作業なら可能」「配慮を要する」だけでは、労働能力がどの程度低下しているか判断しにくいため、できない作業、可能な作業時間、休憩回数、生産性の低下、介助・見守り、勤務継続が困難となった経過を示します。休職・退職している場合も、その理由が平衡機能障害によるものか、他の事情によるものかを整理します。

4 5 予後と備考

予後欄の空欄は避け、改善見込み、症状固定、変動性、治療継続の必要性を医師に判断してもらいます。備考欄には、検査時の安全上の理由で十分な検査ができなかった事情、発作性のため診察時に軽く見えた事情、補助具や介助下での評価であること、転倒歴など、選択肢だけでは伝わらない事項を記載できます。欄が不足する場合は、医師作成の別紙に診断書との対応関係を明示します。

5 他の提出書類との整合

5 1 病歴就労状況等申立書との照合

申立書では、診断書の医学的所見を言い換えるだけでなく、生活場面で起きている具体的事実を補います。診断書が「10メートルをどうにか歩き通す」とする一方、申立書に「歩行は全く問題ない」と記載すると矛盾します。反対に、診断書が「安定」とする一方で申立書だけに頻回の転倒が書かれている場合は、検査条件や症状変動を説明できる資料が必要です。

□ 発症、初診、転医、悪化、休職・退職の年月が一致している

□ 補助具、介助、歩行距離、外出頻度、転倒歴の説明が一致している

□ 就労中の場合、診断書と申立書の配慮内容や業務制限が一致している

5 2 添付資料の検討

診断書だけで平衡機能障害の程度が分かりにくい場合は、医師の判断のもとで検査結果、退院時要約、リハビリテーション評価、転倒・救急受診の記録などを添付することを検討します。資料は多ければよいのではなく、現症日付近の状態と認定基準に関係するものを選びます。聴覚障害を併せて請求する場合は、聴力検査など当該障害に必要な資料も確認します。

6 よくある不十分な記載と改善の方向

不十分な記載

不足している情報

確認する具体的事実

めまい、ふらつきあり

頻度、持続、誘因、回復時間、転倒との関係

週何回、1回何分、頭位変換で悪化、発作後何時間臥床するか

歩行困難

10メートル歩行の結果と条件

何メートルで中断したか、転倒・よろめき、杖、介助、歩行速度

日常生活に支障あり

生活場面と支援内容

入浴見守り、階段介助、買物代行、通院同行、外出回避

就労は配慮下で可能

労働能力低下の程度

免除業務、短時間勤務、休憩、欠勤、送迎、同僚の補助、生産性

検査で異常あり

検査名、実施日、結果

眼振の種類、各検査の数値・判定、左右差、再現性

7 提出前の最終チェック

□ 様式第120号の2が事案に適している

□ 現症年月日と請求目的が一致している

□ 閉眼での起立・立位保持の選択と補足説明がある

□ 開眼での直線10メートル歩行の結果と条件が明確である

□ めまいの頻度、持続、誘因、転倒歴が具体的である

□ 眼振その他の平衡機能検査の結果が記載されている

□ 日常生活上の介助、見守り、補助具、外出制限が具体的である

□ 就労上の禁止業務、配慮、勤務低下、欠勤等が具体的である

□ 初診日、傷病名、治療経過が受診状況等証明書や申立書と一致している

□ 聴覚障害、失調、麻痺などの併存障害と併合の検討がされている

□ 予後欄と医師署名、医療機関所在地、作成日に漏れがない

□ 訂正がある場合、診断書作成医による適正な訂正になっている

8 参考資料

・日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』第3第1章第4節 平衡機能の障害(令和4年4月1日改正版)

・日本年金機構『診断書(聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用)』様式第120号の2

・日本年金機構『記入上の注意』および『障害基礎年金・障害厚生年金の診断書作成の留意事項』

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