聴覚疾患の障害年金申請で診断書を確認するチェックポイント

結論
聴覚障害の診断書は、病名だけでなく、左右別の平均純音聴力レベル、最良語音明瞭度、オージオグラム、検査方法、現症日の日常生活・労働能力が
相互に一致しているかを確認することが重要です。数値が基準に近い案件ほど、計算式と記載漏れの点検が結果を左右します。

1 聴覚疾患の障害年金では診断書の数値が中心資料になる

感音性難聴、突発性難聴、メニエール病、先天性難聴、薬剤性難聴、騒音性難聴など、原因となる傷病はさまざまです。しかし、聴覚の障害による等級は、原則として純音聴力検査による平均純音聴力レベルと、語音聴力検査による最良語音明瞭度を中心に判断されます。

したがって、医師が「高度難聴」「会話困難」と記載していても、それだけでは障害認定基準との照合ができません。左右の測定値、計算結果、語音検査、検査曲線、生活上の支障が一つの診断書の中で整合していることが必要です。

2 最初に確認する診断書の種類と対象年月日

使用する様式は第120号の2

聴覚疾患では、原則として「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用」の診断書(様式第120号の2)を使用します。日本年金機構は、原則A3両面での印刷を案内しています。別の様式で作成されていないか、表裏がそろっているかを確認します。

現症日が請求目的に合っているか

診断書の⑩「障害の状態」には、障害認定日請求、事後重症請求、額改定請求、更新など、手続の目的に対応する年月日の状態が記載されていなければなりません。現症日の記入漏れ、診断書作成日との混同、請求対象期間から外れた診断書は、照会や再作成の原因になります。まず年金事務所等で、どの時点の状態を証明する診断書が必要かを確認します。

3 障害等級の数値基準を左右別に照合する

等級

聴覚の状態

対象制度

1級

両耳の平均純音聴力レベルが、それぞれ100dB以上

障害基礎年金・障害厚生年金

2級

両耳がそれぞれ90dB以上、または両耳がそれぞれ80dB以上で最良語音明瞭度が30%以下

障害基礎年金・障害厚生年金

3級

両耳がそれぞれ70dB以上、または両耳がそれぞれ50dB以上で最良語音明瞭度が50%以下

障害厚生年金のみ

障害手当金

一耳の平均純音聴力レベルが80dB以上

厚生年金。治癒・初診日等の別要件あり

重要:「両耳」は、右耳と左耳の数値を合算して平均する意味ではありません。左右それぞれが基準値を満たすかを確認します。3級と障害手当金は、初診日に厚生年金加入中であることなど制度上の要件が別途必要です。

4 平均純音聴力レベルの計算とオージオグラムを確認する

4分法の計算が正しいか

日本年金機構の認定基準では、500Hzをa、1000Hzをb、2000Hzをcとして、平均純音聴力レベルを「(a+2b+c)÷4」で算出します。これを左右それぞれについて計算し、診断書の「聴力レベル」欄のdB値と一致しているか確認します。単純に3周波数を足して3で割る計算ではありません。

4分法の結果が等級の境界値に近い場合は、4000Hzをdとして「(a+2b+2c+d)÷6」の値も参考にされます。境界事例では、検査票の各周波数、診断書の数値、計算過程を特に慎重に照合します。

オージオグラムとの一致を確認する

診断書には数値欄だけでなく、オージオグラムを記載する欄があります。500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hzの左右の測定点、気導・骨導の記号、測定不能を示す記号などが適切に記載されているかを確認します。スケールアウトがある場合は、請求者側で便宜的な数値に置き換えず、検査機器の最大出力と医師の判断が分かる記録にします。

5 最良語音明瞭度の記載漏れを確認する

90dB未満なら最良語音明瞭度を必ず確認

日本年金機構の診断書作成の留意事項では、両耳の平均純音聴力レベルが90dB未満の場合、最良語音明瞭度を記載するよう示されています。2級の「80dB以上かつ30%以下」や、3級の「50dB以上かつ50%以下」を検討する案件では、語音明瞭度が等級判定の重要な要素です。空欄のまま提出すると、本来検討できる基準が診断書上で確認できません。

検査方法と語音明瞭度曲線も確認

認定基準では、録音器またはマイク付きオージオメータを用い、音量を変えながら最も適した状態で検査し、語音明瞭度の最も高い値を「最良語音明瞭度」とします。語音表は57-S式または67-S式が示されています。単に一つの音圧で得た値ではなく、複数の提示レベルの中で最も高い正答率が採用されているか、左右別の%表示と語音明瞭度曲線が一致しているかを確認します。

計算は「正答語音数÷検査語数×100」です。補聴器使用時の日常会話の印象と、オージオメータによる検査値を混同しないことも大切です。補聴器である程度会話できるという理由だけで、検査数値や生活上の支障を省略しないようにします。

6 新規の1級請求では他覚的聴力検査を確認する

聴覚の障害で障害年金をまだ受給していない方について、両耳100dB以上として新たに1級に該当する診断を行う場合は、純音聴力検査に加えて、聴性脳幹反応検査(ABR)等の他覚的聴力検査または相当する検査が必要です。

  • 実施した検査方法が診断書の所見欄に記載されているか
  • 検査所見が具体的に記載されているか
  • ABR等の記録データのコピーが添付されているか
  • 純音聴力検査の結果と他覚的検査の結果に大きな矛盾がないか

この追加検査は、聴覚障害で既に障害年金を受給している方には不要とされています。該当の有無を本人に確認し、不要な場合でもその判断根拠を整理しておくと安全です。

7 病名・初診日・治療経過の記載を確認する

傷病名は原因疾患まで具体的に

①欄の傷病名が「難聴」「聴覚障害」だけで終わっていないかを確認します。感音性難聴、突発性難聴、先天性難聴、両側メニエール病など、診断可能な範囲で原因となる傷病名が記載されていることが望まれます。障害年金の請求傷病名、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書との表記もそろえます。

発病日・初診日と根拠資料

②傷病の発生年月日、③その傷病について初めて医師の診療を受けた日、④傷病の原因または誘因を確認します。初診日は受給権の基礎となる重要事項です。診療録で確認したのか、本人の申立てによるのか、診断書右側の確認区分まで見ます。先天性難聴でも、直ちに20歳前初診と決めつけず、障害年金上の初診日を資料に基づいて整理します。

治療内容・補聴器・人工内耳・手術歴

⑨欄には、発症から現症日までの経過、聴力低下の進行、薬物治療、鼓室形成術、人工内耳手術、補聴器の装用状況、受診頻度などを具体的に記載します。人工内耳や補聴器を使用していても、基礎となる聴力検査値と、装用しても残る聞き取りの困難を区別して記載することが大切です。

8 現症時の日常生活能力・労働能力を具体化する

⑪欄の「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」は必須記載欄です。「会話困難」「就労に制限あり」という抽象的な表現だけでなく、どの場面で、どのような方法でも補いきれない支障があるかを記載します。

  • 通常の会話、複数人の会話、離れた場所からの呼びかけが理解できない
  • 電話、インターホン、館内放送、駅や病院の呼出しが聞き取れない
  • 警報音、車両の接近音、後方からの呼びかけに気づかず安全確保が難しい
  • 口形の読み取り、筆談、手話、文字起こし機器、家族や同僚の仲介が必要
  • 会議への参加、接客、電話対応、口頭指示の理解が困難で、配置転換や業務免除がある
  • 補聴器を装用しても雑音下や集団場面では語音を識別できず、聞き間違いが生じる

在職中であっても、筆談中心、電話免除、静かな場所への配置、同僚の復唱、会議資料の事前交付などの配慮がなければ仕事が成立しない場合があります。就労の有無だけでなく、実際の業務、配慮、失敗や危険、欠勤・退職経過まで診断書と申立書で一致させます。

9 平衡機能障害・言語機能障害の併存を見落とさない

内耳疾患では、聴覚障害にめまい、ふらつき、直線歩行困難などの平衡機能障害が併存することがあります。認定基準は、この場合に併合認定の取扱いを行うとしています。診断書の平衡機能欄が空欄でよい案件か、実際に症状があるのに記載されていないかを確認します。

また、先天性または幼少期からの聴覚障害により発音・構音や音声言語の表出に障害がある場合は、裏面の会話による意思疎通の程度、発音不能な語音、語音発語明瞭度検査などの欄も検討します。聴力だけの申請と、聴覚障害に由来する言語機能障害を併せて評価する申請を区別します。

10 提出前の最終チェックリスト

□ 様式第120号の2を使用し、原則A3両面で表裏がそろっている

□ 氏名・生年月日・住所・現症日・診断年月日に記入漏れがない

□ 傷病名、発病日、初診日、初診日の確認根拠が他の請求書類と整合する

□ 左右別の平均純音聴力レベルが4分法で正しく算出されている

□ 数値欄とオージオグラムの測定点が一致している

□ 90dB未満の場合、左右別の最良語音明瞭度と語音明瞭度曲線がある

□ 最良語音明瞭度が57-S式または67-S式等の適切な方法で測定されている

□ 新規1級該当時はABR等の方法・所見が記載され、記録データが添付されている

□ 日常生活能力と労働能力が、補助手段や周囲の支援を含めて具体的に書かれている

□ 平衡機能障害や聴覚障害に伴う言語機能障害の併存が確認されている

□ 予後欄が空欄ではなく、判断できない場合は『不詳』等の記載がある

□ 医療機関名だけでなく所在地、診療担当科、医師氏名まで記載されている

11 まとめ

聴覚疾患の障害年金では、診断名よりも、左右別の検査数値と検査方法が障害認定基準に適合しているかが第一の確認点です。そのうえで、病歴、補聴器等の使用状況、日常生活・就労上の支障が数値と矛盾なく記載されていることが重要です。

特に、①4分法の計算違い、②90dB未満での最良語音明瞭度の空欄、③新規1級でのABR等の不足、④生活・労働能力の抽象的記載は、提出前に修正できる代表的なポイントです。診断書を受け取ったら、病歴・就労状況等申立書を作成する前に、まず検査結果と各欄の整合性を確認することが大切です。なお、等級該当性だけでなく、初診日、保険料納付要件、請求時期などの受給要件を満たす必要があります。

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