脊髄小脳変性症で一度は不支給。肢体障害の状態を具体化した再請求で障害基礎年金2級(事後重症)が決定した事例

相談者

  • 性別:男性
  • 年齢:62歳
  • 職業:営業職(契約社員・症状悪化により退職)
  • 傷病名:脊髄小脳変性症
  • 前回の請求結果:肢体の障害の程度を理由に不支給
  • 決定した年金の種類と等級:障害基礎年金2級
  • 受給形態:事後重症による請求
  • 年金額の目安:年間約84.7万円(令和8年度の障害基礎年金2級の本体額。子の加算等を除く)年金事務所

相談時の状況

相談者は、以前から足のふらつきやバランスの悪さを感じていました。旅行先で高い場所に上った際にバランスを崩して転落しそうになったことがあり、その後は転倒したり、階段から落ちたり、物にぶつかってガラスを割ったりすることが増えていきました。本人も原因が分からず不安を抱えていましたが、状態を心配した家族から受診を勧められ、平成30年3月に医療機関を受診しました。

初診時の歩行テストでは、床の線に沿って歩くよう指示されても一歩を踏み出すことができず、目を閉じてその場で足踏みをすると大きく前方へ移動してしまう状態でした。しかし、当初はMRI検査を受けても病名が明確にならず、治療方針も定まらなかったことから、本人の判断で通院を中断した時期がありました。その後、再び受診した際に以前より小脳の萎縮が進んでいることを指摘され、脊髄小脳変性症と診断されました。 #5病歴・就労状況等申立書

病状の進行に伴い、支障は単なる「歩きにくさ」だけではなく、日常生活全般に及んでいました。歩行時にはふらつきや千鳥足、平衡障害があり、油断すると転倒する危険がありました。段差や階段では手すりやつかまる物が必要で、外出時には杖を使用。自宅内にも手すりを設置していました。また、座る、立ち上がるといった動作にも不安定さがあり、とっさに身体を支えることも難しくなっていました。#2身体障害の状態(⑳欄)

上肢では特に左手の感覚や機能が低下しており、物をつかむ、字を書く、衣服のボタンを留める、服を着脱するといった動作にも不自由がありました。食事は箸を使用できるものの、食べ物をこぼすことがあり、食事や飲み物でむせたり、誤嚥しそうになったりすることもありました。

排泄についても我慢することが難しく、トイレに間に合わなかった経験があるため、かなり早めに行動する必要がありました。入浴では浴槽への出入りや浴室内での動作に危険があり、妻の配慮が必要でした。洗濯や買い物は主に妻が行い、金銭管理についても支援を受けていました。#1日常生活及び労働能力(21欄)

一方、相談者は契約社員として週5日、1日8時間程度の営業職を続けていました。しかし、「仕事をしているから障害が軽い」という状態ではありませんでした。伝票などに文字を書くことが難しく、パソコンも主に右手だけで時間をかけて操作していました。階段や段差の移動は危険を伴い、外回りにも大きな身体的負担がありました。

以前は海外出張を行っていましたが、脊髄小脳変性症の進行により出張ができなくなり、営業成績や収入も以前より低下していました。体調不良による欠勤もあり、会社とも相談した結果、安全かつ安定して仕事を続けることは難しいとして、令和8年5月末で退職することになりました。#1日常生活及び労働能力(21欄)

すでに一度、障害年金を本人が請求していましたが、その際は「障害の程度」を理由として不支給となっていました。そこで再請求では、病名だけではなく、現在の身体機能と日常生活、就労にどの程度の制限が生じているのかを、具体的かつ客観的に伝えることが重要な課題となりました。

相談から請求までのサポート

今回の再請求で重視したのは、診断書だけですべてを説明しようとするのではなく、相談者の日常生活や身体機能の実態を複数の資料によって具体化することでした。

具体的には、①現症時の日常生活及び労働能力、②現在の身体障害の状態、③予後、④日常生活動作の程度を整理した肢体の自己申告資料、⑤病歴・就労状況等申立書およびその続紙を準備しました。これらを診断書作成時の参考資料として医師に提示するとともに、障害年金の再請求時には日本年金機構へ提出しました。

まず、現症時の日常生活能力については、会話や構音、ろれつの状態だけでなく、嚥下障害、疲労感、外出、転倒や怪我などについて整理しました。さらに、起居動作、屋内移動、外出、食事、排泄、入浴、更衣、整容、調理、洗濯・買い物、服薬管理、金銭管理まで確認し、「一応できる」という表現だけで終わらせず、どの程度時間がかかるのか、手すりや杖が必要なのか、妻による見守りや援助が必要なのかを具体的に整理しました。#1日常生活及び労働能力(21欄)

現在の身体障害の状態については、ふらつき、千鳥足、平衡障害、転倒の危険性、段差や階段での不安、杖や手すりの使用状況を整理しました。また、左手の感覚低下、物をつかむ際の不安、書字困難などの上肢機能についても詳しく確認し、体幹については座る、立つといった動作でも支持物が必要になる場面があることを医師に伝えました。#2身体障害の状態(⑳欄)

さらに、予後に関しては、脊髄小脳変性症が進行性の疾患であり、歩行、上肢機能、嚥下に障害が生じ、家庭生活・社会生活・就労のすべてに大きな制限が生じている状況を整理しました。#3予後(22欄)

肢体の自己申告資料では、「つまむ」「握る」「タオルを絞る」「ひもを結ぶ」「食事をする」「顔を洗う」「用便の処理をする」「衣服を着脱する」「片足で立つ」「座る」「おじぎをする」「屋内・屋外を歩く」といった日常生活動作を一つずつ確認しました。

障害年金の肢体の障害は、単に歩けるかどうかだけで判断されるものではありません。厚生労働省の障害認定基準でも、筋力、巧緻性、速さ、耐久性や日常生活動作の状態などから、身体機能を総合的に認定する考え方が示されています。厚生労働省 そのため今回も、「できる・できない」という二択ではなく、「一人でできても非常に不自由」「手すりなどの支持が必要」「瞬間的にはできても日常生活では実用性に乏しい」といった実態が伝わるよう整理しました。

病歴・就労状況等申立書では、症状が現れ始めた時期から初診、受診中断、再受診、脊髄小脳変性症の診断、その後の症状悪化までを時系列で整理しました。さらに、営業職を続けていた事実だけが一人歩きしないよう、国内外への出張ができなくなったこと、階段の上り下りや靴の脱ぎ履きに苦労していたこと、誤嚥、排泄の切迫、転倒、書字困難、欠勤など、就労を継続するために相当な無理を重ねていた状況についても丁寧に反映しました。 #5病歴・就労状況等申立書

結果

再請求の結果、脊髄小脳変性症による障害について、事後重症による障害基礎年金2級が決定しました。

事後重症による請求とは、障害認定日の時点では法令に定める障害状態に該当していなかった場合でも、その後に症状が悪化して障害等級に該当する状態となったときに、現在の障害状態で請求する方法です。日本年金機構では、事後重症による請求が認められた場合、請求日の翌月分から障害年金を受給できると案内しています。年金事務所

この事例では、前回の不支給後に進行した症状について、歩行障害だけを見るのではなく、**上肢機能、体幹の不安定さ、嚥下、排泄、入浴、更衣、家事、外出、就労などを含めた「日常生活全体への影響」**として整理したことが、再請求を行ううえで重要なポイントとなりました。

障害年金は、同じ脊髄小脳変性症という傷病名であっても、請求時点の障害状態や日常生活への影響、診断書や病歴・就労状況等申立書などに記載された内容をもとに個別に審査されます。一度「障害の程度」を理由に不支給となった場合でも、その後に病状が進行し、日常生活上の制限が大きくなっている場合には、現在の状態を改めて整理したうえで再請求を検討できるケースがあります。

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