網膜色素変性症で障害年金を受給するためのポイント|視力・視野の認定基準と申請方法

網膜色素変性症は、暗い場所で見えにくくなる「夜盲」や、周囲から視野が狭くなる「求心性視野狭窄」などが現れ、長い年月をかけて進行することのある病気です。

視力検査では比較的よい数値が残っていても、視野が著しく狭いために、歩行、通勤、買い物、仕事などに大きな支障を抱えている方も少なくありません。

網膜色素変性症による障害年金は、病名だけで受給の可否が決まるわけではありません。初診日、保険料納付要件、障害認定日における視力・視野の状態などを確認し、日本年金機構の認定基準に照らして審査されます。

1.網膜色素変性症とは

1-1.網膜の視細胞が障害される進行性の病気

杆体細胞と錐体細胞の働き

網膜色素変性症は、目の内側にある網膜に異常が生じる遺伝性・進行性の疾患です。

網膜には、目に入った光を神経の信号に変換する「視細胞」があります。視細胞は、大きく次の二つに分けられます。

  • 杆体細胞:暗い場所での見え方や視野の広さに関係する 
  • 錐体細胞:中心視力や色覚に関係する 

網膜色素変性症では、杆体細胞が先に障害されることが多いため、初期には夜盲や視野狭窄が現れ、その後、病状の進行に伴って視力低下や色覚異常が生じることがあります。

1-2.症状の現れ方には個人差がある

夜盲・視野狭窄・まぶしさなどが現れる

網膜色素変性症の代表的な症状には、次のようなものがあります。

  • 暗い場所で物が見えにくい 
  • 明るい場所から暗い場所へ移動すると見えるまで時間がかかる 
  • 視野が周辺部分から狭くなる 
  • 人や物にぶつかりやすい 
  • 段差や障害物を見落とす 
  • 強い光をまぶしく感じる 
  • 色の区別が難しくなる 
  • 視力が低下する 

人にぶつかる、車の運転が難しくなる、暗い場所を一人で歩けなくなるなどの困りごとをきっかけに、視野の異常に気づくこともあります。

ただし、症状が現れる順番や進行速度には大きな個人差があります。同じ病名であっても、視力や視野の状態が同じとは限りません。定期的な視力検査・視野検査によって、病気の進行を確認することが重要です。

1-3.「視力がよいから障害が軽い」とは限らない

中心視力が残っていても視野が狭い場合がある

網膜色素変性症では、中心部分の視野が残っている間は、矯正視力が比較的保たれることがあります。

そのため、視力検査では文字を読める一方で、次のような状態が起こることがあります。

  • 周囲の人や障害物に気づかない 
  • 横から来る自転車や自動車が見えない 
  • 視線を移したときに対象物を見失う 
  • 混雑した場所を一人で歩けない 
  • 商品棚から目的の商品を探せない 
  • 書類の行や文字を読み飛ばす 

障害年金の可能性を検討する際は、視力だけで判断せず、ゴールドマン型視野計または自動視野計による視野検査の結果を確認することが非常に重要です。

2.網膜色素変性症は障害年金の対象になる

2-1.指定難病と障害年金は別の制度

指定難病だから自動的に受給できるわけではない

網膜色素変性症は「指定難病90」に該当します。

しかし、指定難病の認定を受けていることや、身体障害者手帳を持っていることだけで、障害年金が自動的に支給されるわけではありません。

障害年金は、難病医療費助成や身体障害者手帳とは別の制度です。年金制度独自の受給要件と障害認定基準に基づいて判断されます。

反対に、身体障害者手帳を持っていない場合であっても、障害年金の要件を満たしていれば受給できる可能性があります。

2-2.確認すべき三つの受給要件

初診日

初診日とは、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。

網膜色素変性症の場合、原則として確定診断を受けた日だけでなく、夜盲、視野異常、視力低下など、後の網膜色素変性症につながる症状について初めて眼科を受診した日を確認する必要があります。

網膜色素変性症は進行が緩やかなこともあり、初診から障害年金の請求まで長期間が経過しているケースがあります。

初診時のカルテが廃棄されている場合に備え、次のような資料を探します。

  • 診察券 
  • 紹介状 
  • お薬手帳 
  • 医療費の領収書 
  • 身体障害者手帳の申請資料 
  • 難病医療費助成の申請資料 
  • 学校や勤務先の健康診断記録 
  • 生命保険会社へ提出した診断書 
  • 当時の受診状況を知る第三者の申立て 

これらの資料だけで初診日が必ず認められるとは限りませんが、受診経過を確認する重要な手掛かりになります。

保険料納付要件

原則として、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あることが必要です。

初診日が令和18年3月31日までにあり、初診日に65歳未満である場合は、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ、納付要件を満たす特例があります。

20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合、保険料納付要件は問われません。ただし、20歳前傷病による障害基礎年金には、本人の前年所得による支給制限があります。

障害の程度

初診日に国民年金へ加入していた方や、20歳前に初診日がある方は、原則として障害等級1級または2級に該当した場合に、障害基礎年金の対象となります。

初診日に厚生年金へ加入していた方は、1級・2級に加えて3級も対象になります。

3.眼の障害に関する障害認定基準

眼の障害に関する認定基準は、令和4年1月1日から一部改正されています。現在は、視力について良い方の眼の視力を重視する考え方が導入され、視野についてもゴールドマン型視野計と自動視野計のそれぞれに基準が定められています。

3-1.視力障害の主な基準

障害年金では原則として矯正視力を使用する

障害年金で用いられる視力は、原則として眼鏡やコンタクトレンズなどにより最良の状態に矯正した「矯正視力」です。

両眼を別々に測定し、良い方の眼と他方の眼の視力によって障害の程度が認定されます。

1級の視力基準

主に次のいずれかに該当する場合です。

  • 両眼の視力がそれぞれ0.03以下 
  • 一眼の視力が0.04で、他眼の視力が手動弁以下 

2級の視力基準

主に次のいずれかに該当する場合です。

  • 両眼の視力がそれぞれ0.07以下 
  • 一眼の視力が0.08で、他眼の視力が手動弁以下 

3級の視力基準

初診日に厚生年金へ加入していた方については、次の状態が3級の基準となります。

  • 両眼の視力がそれぞれ0.1以下 

「両眼の視力がそれぞれ0.1以下」とは、視力の良い方の眼が0.1以下であることを意味します。

3-2.視野障害の主な基準

網膜色素変性症では視野の基準が重要

網膜色素変性症では、中心視力が残ったまま、周辺視野が著しく狭くなることがあります。

そのため、視力の基準に該当していなくても、視野の基準によって障害年金が認定される可能性があります。

3-3.ゴールドマン型視野計による基準

1級

次の両方に該当する場合です。

  • 両眼の/4視標による周辺視野角度の和が、それぞれ80度以下 
  • /2視標による両眼中心視野角度が28度以下 

2級

次の両方に該当する場合です。

  • 両眼の/4視標による周辺視野角度の和が、それぞれ80度以下 
  • /2視標による両眼中心視野角度が56度以下 

また、求心性視野狭窄または輪状暗点があり、/2視標による両眼の視野がそれぞれ5度以内に収まる場合も、2級相当として取り扱われます。

3級

初診日に厚生年金へ加入していた方については、次の状態が3級の基準です。

  • 両眼の/4視標による周辺視野角度の和が、それぞれ80度以下 

3-4.自動視野計による基準

1級

次の両方に該当する場合です。

  • 両眼開放視認点数が70点以下 
  • 両眼中心視野視認点数が20点以下 

2級

次の両方に該当する場合です。

  • 両眼開放視認点数が70点以下 
  • 両眼中心視野視認点数が40点以下 

3級

初診日に厚生年金へ加入していた方については、次の状態が3級の基準です。

  • 両眼開放視認点数が70点以下 

自動視野計の両眼開放視認点数は、両眼開放エスターマンテストによって測定されます。中心視野については、10-2プログラムによる左右それぞれの測定結果から、両眼中心視野視認点数を算出します。

3-5.異なる視野計の結果を混在させない

ゴールドマン型視野計と自動視野計は、それぞれ別の基準によって認定されます。

たとえば、ゴールドマン型視野計の周辺視野の結果と、自動視野計の中心視野の結果を組み合わせて等級を判断することはできません。

また、視野検査の結果は、原則として診断書に添付する必要があります。

4.申請で特に注意したいポイント

4-1.視力の数値だけで判断しない

矯正視力がよくても受給の可能性がある

「矯正視力が0.5あるので障害年金は受けられない」と判断するのは早計です。

矯正視力が保たれていても、求心性視野狭窄が進行し、視野障害の基準に該当している可能性があります。

特に網膜色素変性症では、現在の矯正視力だけでなく、次の検査結果を確認することが重要です。

  • ゴールドマン型視野計の/4視標 
  • ゴールドマン型視野計の/2視標 
  • 両眼開放エスターマンテスト 
  • 自動視野計の10-2プログラム 

4-2.診断書に正しい検査結果を反映してもらう

眼の障害用診断書を使用する

障害年金の請求では、「眼の障害用」の診断書を使用します。

診断書には、次のような事項を正確に記載してもらう必要があります。

  • 左右それぞれの矯正視力 
  • 視野検査の種類 
  • 周辺視野角度の和 
  • 両眼中心視野角度 
  • 両眼開放視認点数 
  • 両眼中心視野視認点数 
  • 検査結果と傷病名との整合性 
  • 日常生活や就労への影響 

日本年金機構は、障害年金の要件、使用する診断書、診断書に記入する症状の日付を確認する必要があるため、診断書を作成する前に年金事務所等へ相談するよう案内しています。

4-3.日常生活上の支障を具体的に整理する

「見えにくい」だけでは実態が伝わりにくい

病歴・就労状況等申立書には、単に「視野が狭い」「見えにくい」と記載するのではなく、実際に生じている支障を具体的に記載します。

例えば、次のような内容です。

  • 暗い場所では家族の誘導が必要 
  • 夜間は一人で外出できない 
  • 駅の階段やホームを一人で移動できない 
  • 人や物に頻繁にぶつかる 
  • 段差を見落として転倒する 
  • 商品棚から目的の商品を探せない 
  • 書類の行を読み飛ばす 
  • パソコン画面の拡大や読み上げ機能が必要 
  • 通勤時に家族の送迎が必要 
  • 運転を伴う業務から外されている 
  • 職場で座席や照明への配慮を受けている 

病歴・就労状況等申立書は、診断書だけでは分からない障害状態を補足する資料です。検査数値と日常生活上の支障が矛盾しないように、具体的かつ一貫して記載することが大切です。

ただし、日常生活が困難であるという事情だけで、視力・視野の数値基準を置き換えられるわけではありません。まずは認定基準に対応した視力・視野検査の結果を確認し、その結果が生活上どのような支障を生じさせているかを説明します。

4-4.初診日の確認を早めに行う

診断を受けた日が初診日とは限らない

網膜色素変性症は、若い頃から夜盲などの症状があっても、長期間受診していないケースがあります。

また、最初に受診した眼科では、網膜色素変性症と確定診断されず、「夜盲」「視野狭窄」「網膜疾患の疑い」などと説明されていることもあります。

初診日によって、次の重要な事項が変わります。

  • 障害基礎年金か障害厚生年金か 
  • 障害厚生年金3級の対象になるか 
  • 保険料納付要件を満たしているか 
  • 障害認定日がいつになるか 
  • 20歳前傷病に該当するか 

現在の病院だけでなく、最初に夜盲や視野異常を相談した眼科、紹介元の医療機関、学校や勤務先の健康診断記録などを確認し、受診歴を時系列で整理することが申請の第一歩です。

5.請求方法は基準に該当した時期で変わる

5-1.障害認定日による請求

原則として初診日から1年6か月後を確認する

障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。

その時点で1級・2級、または障害厚生年金3級の基準に該当していた場合は、障害認定日による請求を検討します。

請求が遅れた場合でも、障害認定日当時の診断書を取得でき、受給要件を満たしていれば、遡って支給される可能性があります。ただし、年金の支払いには時効があり、原則として請求時点から5年を超える分は支給されません。

障害認定日と請求日が1年以上離れている場合は、障害認定日当時の診断書に加えて、請求日前3か月以内の現症を記載した診断書も必要になります。

5-2.事後重症による請求

障害認定日後に視野狭窄が進行した場合

障害認定日には基準に該当しなかったものの、その後、視野狭窄や視力低下が進行し、現在は障害等級に該当している場合は、事後重症による請求を検討します。

事後重症請求では、原則として請求日の翌月分から障害年金が支給されます。過去にさかのぼって支給されるものではないため、基準に該当する可能性がある場合は、請求時期をいたずらに遅らせないことが大切です。

また、事後重症請求は、原則として65歳の誕生日の前々日までに請求書を提出する必要があります。

6.網膜色素変性症の障害年金申請で準備する資料

6-1.主な申請書類

申請に当たっては、一般に次のような書類を準備します。

  • 年金請求書 
  • 眼の障害用診断書 
  • 視野検査結果 
  • 受診状況等証明書 
  • 病歴・就労状況等申立書 
  • 戸籍・住民票等の必要書類 
  • 年金の受取口座が分かる資料 

初診時の医療機関と診断書を作成する医療機関が異なる場合は、原則として、初診日の証明となる受診状況等証明書が必要です。

6-2.過去の視力・視野検査を時系列で整理する

網膜色素変性症は進行性の病気であるため、1回の検査結果だけでなく、過去から現在までの推移が重要になることがあります。

次の事項を一覧表にすると、障害認定日請求や事後重症請求の検討がしやすくなります。

  • 検査年月日 
  • 医療機関名 
  • 左右の矯正視力 
  • 視野検査の種類 
  • 周辺視野角度の和 
  • 中心視野角度 
  • 視認点数 
  • 当時の仕事 
  • 通勤方法 
  • 日常生活上の支援内容 

特に、障害認定日当時の視野検査表が残っている場合は、診断書作成の重要な資料になる可能性があります。

7.まとめ

網膜色素変性症による障害年金申請では、病名や身体障害者手帳の等級だけでなく、矯正視力と視野検査の結果が重要です。

特に、中心視力が比較的残っていても、求心性視野狭窄が進んでいる方は、視野障害の認定基準を詳しく確認する必要があります。

申請に当たっては、次の点が重要です。

  • 初診日を正確に特定する 
  • 保険料納付要件を確認する 
  • 障害認定日当時と現在の視力・視野を確認する 
  • 適切な時点の診断書を取得する 
  • 視野検査表を添付する 
  • 日常生活や就労上の支障を具体的に記載する 
  • 障害認定日請求と事後重症請求のどちらが適切か検討する 

網膜色素変性症は長い経過をたどることが多く、過去の受診歴や検査結果の整理が難しくなりやすい疾患です。

「視力が残っているから障害年金は対象外」と自己判断せず、視野検査を含めた現在の状態を確認したうえで、受給の可能性を検討することが大切です。

 

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