感音性難聴で障害年金を申請するためのガイド

感音性難聴によって会話の聞き取りが難しくなり、仕事や日常生活に大きな支障が生じている場合、障害年金を受給できる可能性があります。

ただし、「感音性難聴と診断されたこと」や「補聴器を使用していること」だけで、直ちに障害年金の対象になるわけではありません。

聴覚の障害は、主として純音聴力検査による平均純音聴力レベルと、語音聴力検査による最良語音明瞭度を用いて判定されます。さらに、初診日、初診日に加入していた年金制度、保険料納付要件、障害認定日の状態なども確認されます。

本記事では、感音性難聴で障害年金を申請する際に知っておきたい認定基準と、申請準備のポイントを分かりやすく解説します。

1.感音性難聴とは

感音性難聴の医学的な意味

日本聴覚医学会は、感音性難聴について、内耳または内耳から聴覚中枢に至る部位に、器質的な病変があると考えられる聴覚障害と説明しています。

外耳や中耳で音を伝える仕組みに問題がある伝音性難聴とは異なり、内耳、聴神経、聴覚中枢へ至る経路などに障害がある状態です。

「音が聞こえること」と「言葉を理解できること」は別の問題

感音性難聴では、音量を大きくすれば、すべての聞き取りが改善するとは限りません。

音の存在は分かっても、

  • 言葉が歪んで聞こえる 
  • 会話の一部を聞き間違える 
  • 複数人の会話を聞き分けにくい 
  • 電話や館内放送の内容を理解しにくい 
  • 騒音のある場所では言葉を聞き取れない 

といった、「言葉を識別すること」の困難が残る場合があります。

このため、障害年金では、音を感じ取れる最小の大きさを示す純音聴力レベルだけではなく、言葉をどの程度正確に聞き取れるかを示す語音明瞭度も重要な評価項目となっています。

日常生活や仕事に生じやすい支障

感音性難聴による困難は、静かな診察室での一対一の会話だけでは把握しきれないことがあります。

例えば、次のような支障です。

  • 呼びかけや警報音、自動車の接近に気づきにくい 
  • 家族との会話でも何度も聞き返す 
  • 電話対応やオンライン会議が難しい 
  • 会議で発言者が変わると内容を追えない 
  • 接客、指示受け、安全確認を伴う仕事が難しい 
  • 聞き間違いを防ぐため、家族や同僚の確認が必要になる 
  • 会話への不安から、外出や人との交流が減少する 

聴覚障害は検査数値が重視されますが、病歴・就労状況等申立書では、こうした生活上・就労上の支障を具体的に伝えることも大切です。

2.障害年金を受給するための基本要件

初診日に加入していた年金制度を確認する

障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があります。

障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日が「初診日」です。同じ傷病で複数の医療機関を受診している場合は、原則として、一番初めに医療機関を受診した日が初診日になります。

初診日に国民年金へ加入していた場合や、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、原則として障害基礎年金の対象となります。

初診日に厚生年金へ加入していた場合は、障害厚生年金の対象となります。

3級があるのは障害厚生年金だけ

障害基礎年金の等級は1級と2級です。

一方、障害厚生年金には1級、2級、3級があります。

そのため、聴覚障害の3級基準に該当していても、初診日が国民年金加入中または20歳前であれば、障害基礎年金には3級がないため、原則として年金は支給されません。

感音性難聴の申請では、現在の聴力数値だけでなく、初診日にどの年金制度へ加入していたかの確認が非常に重要です。

保険料納付要件を確認する

20歳以降に初診日がある場合は、原則として、初診日の前日において所定の保険料納付要件を満たす必要があります。

基本的な要件は、初診日のある月の前々月までの年金加入期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あることです。

また、執筆時点では、初診日が令和18年3月31日までにあり、初診日に65歳未満である場合、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ、納付要件を満たす特例があります。

20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われません。

障害認定日と請求方法

障害認定日は、原則として、障害の原因となった傷病の初診日から1年6か月を経過した日です。

初診日から1年6か月以内に症状が固定し、治療の効果が期待できない状態になった場合は、症状固定日が障害認定日となることがあります。

障害認定日に等級へ該当していれば、障害認定日による請求を検討します。

障害認定日には等級へ該当せず、その後に聴力が低下して基準へ該当した場合は、事後重症による請求を検討します。

事後重症請求は、原則として請求日の翌月分からの支給となります。請求が遅れるほど受給開始時期も遅くなるため、基準に該当する可能性がある場合は、手続きを先延ばしにしないことが重要です。

3.感音性難聴の障害認定基準

聴覚障害は二つの検査値で判断される

日本年金機構の障害認定基準では、聴覚障害の程度を、次の二つの検査値によって認定するとしています。

  1. 純音による聴力レベル値 
  2. 語音による聴力検査値である語音明瞭度 

主な認定基準は次のとおりです。

等級

障害の状態

1級

両耳の聴力レベルが100デシベル以上

2級

両耳の聴力レベルが90デシベル以上

2級

両耳の平均純音聴力レベルが80デシベル以上で、かつ、最良語音明瞭度が30%以下

3級

両耳の平均純音聴力レベルが70デシベル以上

3級

両耳の平均純音聴力レベルが50デシベル以上で、かつ、最良語音明瞭度が50%以下

3級は、初診日に厚生年金へ加入していた人が対象となる障害厚生年金に限られます。

また、厚生年金加入中に初診日があり、初診日から5年以内に症状が固定したことなど、障害手当金の要件を満たす場合は、一耳の平均純音聴力レベルが80デシベル以上で、障害手当金の対象となる可能性があります。

平均純音聴力レベルの計算方法

平均純音聴力レベルは、500ヘルツ、1000ヘルツ、2000ヘルツの純音聴力レベルを使用して算出します。

それぞれの値を次のように置き換えます。

  • a:500ヘルツ 
  • b:1000ヘルツ 
  • c:2000ヘルツ 

原則として、次の計算式を使用します。

平均純音聴力レベル=(a+2b+c)÷4

この算式では、1000ヘルツの値に2倍の重みが置かれています。

算出した数値が等級の境界値に近い場合は、4000ヘルツの値を「d」として、次の算式による数値も参考にされます。

(a+2b+2c+d)÷6 

左右それぞれの数値を確認する

認定基準には「両耳」と定められているため、良い方の耳と悪い方の耳の数値を合算して、一つの平均値を算出するものではありません。

左右それぞれの平均純音聴力レベルが、必要な基準を満たしているかを確認します。

例えば、右耳が80デシベル、左耳が60デシベルの場合、両耳を平均して70デシベルとし、3級に該当すると判断することはできません。

最良語音明瞭度とは

語音明瞭度は、検査で提示された語音のうち、正しく聞き取れた語音の割合を百分率で示したものです。
例えば、50語の検査語のうち、正しく聞き取れたものが20語であれば、語音明瞭度は40%となります。
障害認定基準では、57-S式語表または67-S式語表を使用し、音量を変えて検査した中で、最も高い語音明瞭度を「最良語音明瞭度」とします。

例えば、両耳の平均純音聴力レベルが50デシベル以上70デシベル未満であっても、最良語音明瞭度が50%以下であれば、障害厚生年金3級に該当する可能性があります。
また、両耳の平均純音聴力レベルが80デシベル以上で、最良語音明瞭度が30%以下であれば、障害基礎年金または障害厚生年金の2級に該当する可能性があります。

純音聴力レベルだけでは基準に届かない場合でも、語音明瞭度との組合せによって認定対象になることがあるため、語音聴力検査の実施状況を確認することが重要です。

1級では他覚的聴力検査も必要

これまで聴覚障害による障害年金を受給していない人について、初めて1級に該当する診断を行う場合は、通常のオージオメータによる検査に加え、聴性脳幹反応検査などの他覚的聴力検査、またはそれに相当する検査が必要です。

実施した検査方法と検査所見を診断書へ記載し、検査記録データの写しなどを添付する取扱いとなっています。

4.申請準備で特に注意したいポイント

初診日の資料を早めに集める

感音性難聴では、

  • 幼少期から聞こえにくさがあった 
  • 学校や勤務先の健康診断で難聴を指摘された 
  • 長期間、医療機関を受診していなかった 
  • 複数の耳鼻咽喉科を転院している 
  • 補聴器を使用しているが、最初の受診時期を覚えていない 

といったケースが少なくありません。

確認するのは、現在の医療機関を初めて受診した日ではなく、障害の原因となった難聴について、最初に医療機関を受診した日です。

初診時のカルテが残っていない場合は、次のような資料を検討します。

  • 身体障害者手帳 
  • 身体障害者手帳申請時の診断書 
  • 過去の医療機関の診断書 
  • 学校や勤務先の健康診断記録 
  • 生命保険等の給付申請時に提出した診断書 
  • 補聴器作成時の検査資料 
  • 2番目以降の医療機関の診療録 

日本年金機構も、初診時の医療機関による証明が取得できない場合に、身体障害者手帳、手帳申請時の診断書、健康診断記録などを参考資料として取り扱う場合があると案内しています。

診断書を依頼する前に検査値を確認する

聴覚障害の申請では、「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用」の診断書である様式第120号の2を使用します。

日本年金機構は、使用する診断書の種類や、診断書に記載する症状の日付を確認する必要があるため、診断書を作成する前に年金事務所等へ相談するよう案内しています。

申請前には、左右それぞれについて、次の項目を確認しましょう。

  • 500、1000、2000ヘルツの聴力レベル 
  • 必要に応じて4000ヘルツの聴力レベル 
  • 左右それぞれの平均純音聴力レベル 
  • 最良語音明瞭度 
  • 語音明瞭度検査で使用した語表 
  • 平衡機能障害の有無 
  • 補聴器を使用しても残る会話上・就労上の支障 

特に、純音聴力だけでは基準に届かなくても、語音明瞭度との組合せによって2級または3級に該当する場合があります。

診断書完成後に検査不足へ気づくと、再検査や診断書の訂正が必要になることもあるため、診断書を依頼する前の確認が大切です。

病歴・就労状況等申立書は検査数値を補足する

聴覚障害には明確な数値基準がありますが、病歴・就労状況等申立書が重要でないという意味ではありません。

申立書では、次の内容を時系列で整理します。

  • 聞こえにくさに気づいた時期 
  • 初めて医療機関を受診した経緯 
  • 聴力低下の経過 
  • 治療や検査の内容 
  • 補聴器の使用開始時期 
  • 日常生活で受けている家族の支援 
  • 職場で受けている配慮 
  • 聞き間違いや安全面の問題 

「聞こえにくい」ではなく具体的に書く

「難聴のため仕事が大変」とだけ記載するのではなく、次のように具体化します。

電話では相手の言葉を正確に聞き取れないため、電話対応を免除されている。

会議では資料を事前に受け取り、同僚が要点を筆談で伝えている。

工場内では警報音や背後からの呼びかけに気づけないため、単独作業を避けている。

通院や行政手続では、家族が同行して医師や担当者の説明を聞き直している。

補聴器を装用して就労している場合も、「補聴器があれば問題なく働けている」と決めつけることはできません。

騒音下での聞き取り、電話対応、指示の聞き間違い、安全面の配慮、同僚による復唱や確認など、実際に受けている支援を整理することが重要です。

平衡機能障害を伴う場合

内耳の傷病では、聴覚障害と平衡機能障害が併存することがあります。

日本年金機構の障害認定基準では、聴覚障害、特に内耳の傷病による障害と平衡機能障害が併存する場合には、併合認定の取扱いを行うとされています。

めまい、ふらつき、直線歩行の困難、転倒、屋外歩行時の付き添いなどがある場合は、聴力だけでなく平衡機能についても医師へ伝え、必要な診断書様式や検査方法を確認する必要があります。

5.感音性難聴の障害年金申請は総合的な準備が重要

感音性難聴による障害年金は、病名の重さや身体障害者手帳の等級だけで決まるものではありません。

次の項目を一つずつ確認する必要があります。

  • 左右それぞれの平均純音聴力レベル 
  • 最良語音明瞭度 
  • 初診日 
  • 初診日に加入していた年金制度 
  • 保険料納付状況 
  • 障害認定日の聴力 
  • 現在の日常生活・就労状況 
  • 平衡機能障害の有無 

特に見落とされやすいのが、語音明瞭度による認定基準です。

「音はある程度聞こえるが、言葉を正確に理解できない」という感音性難聴の症状がある場合は、純音聴力検査だけで判断せず、語音聴力検査の結果も確認することが重要です。

また、長い受診歴がある場合は、初診日の証明が申請全体を左右します。診断書を先に取得するのではなく、初診日、請求方法、必要な検査、診断書に記載する現症日を整理してから手続きを進めることが、円滑な申請につながります。

感音性難聴によって仕事や日常生活に支障があり、

「自分の聴力が認定基準に該当するか分からない」
「語音明瞭度の検査を受けたか分からない」
「昔の初診日を証明できない」
「補聴器を使用して働いているが対象になるか知りたい」

とお悩みの方は、障害年金に詳しい社会保険労務士へ早めにご相談ください。

 

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